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第三章 天女、邂逅 + 6 +

last update Terakhir Diperbarui: 2025-05-27 06:58:00

「異母妹がそこで僕を待っているのです。僕は早く彼女を迎えに行きたいのです。そのためにも、重ねてお願い申し上げます。向清棲伯爵、幹仁(みきひと)様、どうか」

 爵位は上にあるはずなのに、柚葉は思わずあたまを下げていた。彼女を護るために最善の選択をしたであろう父を裏切るような行為を、柚葉はしている。きっと、目の前にいる幹仁には滑稽に映っているであろう。けれど、それでも柚葉は桜桃を諦めきれない。

「父との約束……ゆすらとの結婚のはなしを、白紙にさせてください」

 もちろん、柚葉にそのような権限はない。だが、樹太朗の代理として、自分は向清棲伯爵とこうして向き合っている。彼だって空我邸の襲撃を知らないわけがない。その原因が、まだ見ぬ自分の婚約者であることも。

 桜桃も自分に結婚の話がでていたことなど知る由もないだろう。だが、樹太朗はセツが生んだ子どもが女児だと判明した時点で、そこまで考えていたのだ。天神の娘という運命を定められた彼女を護るため。そして、彼女を悪用しようとする人間を退けるため。

「……僕が「いやだ」と言ったらどうするんだい」

「向清棲家を乗っ取ります」

 目の前の男は面白がっている。生まれた頃から決められていた結婚の話を忌々しく思っていた男のことだ、喜んで白紙にすると思っていたが……柚葉はつまらなそうに顔を顰め、きっぱりと言い放つ。

 桜桃が幹仁と結婚すれば、古都律華の連中も手は出せないだろう。それに、向清棲家は国の内外問わず多くの土地を所有している。桜桃を守るための新たな鳥籠にと樹太朗が決めたのもわからなくもない。前伯爵と懇意にしていた樹太朗が互いの息子と娘を結婚させることに意気投合していたという話も頷ける。だが、それでは柚葉は桜桃を手に入れられないのだ。

「……兄妹同士の婚姻は認められていないはずだが」

「存じています」

「ならば、あのとき逃げてもよかったのではないか? なぜゆえ、僕のもとに君は助けを求めに来たんだ」

「助けなど」

「結婚の話など互いの親の口約束にすぎぬ。いまさら蒸し返したところで本気にする人間は殆どいない。もとより、そんな物騒な娘を嫁にするつもりもない。確
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